簡単まとめ

Bitcoin-NG論文を見てみる1

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本稿について

様々なブロックチェーンにインスピレーションを与えているプロトコルBitcoin-NG(Bitcoin Next Generation)の論文を見ていきます。本稿では「Abstract」と「1. Introduction」を見ます。

原文はこちらになります。

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Bitcoin-NG: スケーラブルなブロックチェーンプロトコル

Ittay Eyal, Adem Efe Gencer, Emin Gun Sirer, Robbert van Renesse

コーネル大学

今回のまとめ

  • Bitcoin-NG(Next Generation)はBitcoinのスケーラビリティ面(レイテンシ、スループット)を改善するプロトコルであり、仕組みはBitcoinのプロトコルとは異なるがBitcoinと同等の堅牢性を誇る。
    • このプロトコルでは、レイテンシはネットワークの伝搬遅延によってのみ制限され、帯域幅は個々のノードの処理性能によってのみ制限される。
    • プロトコルのオペレーションは「リーダー選出(leader election)」と「トランザクションシリアライゼーション(transaction serialization)」の2フェーズに分けている。エポックという時間単位に対して1リーダーが選出され、そのリーダーは当該エポックの間に限りトランザクションシリアライゼーションの権限を持つ。
      • Bitcoinでも暗黙的にリーダー選出が行われているが、Bitcoin-NGのリーダーとは役割が異なる。Bitcoinのリーダーは履歴のシリアライズを担当し、Bitcoin-NGのリーダーはトランザクションのシリアライズを担当する。
  • 本論文では、コンセンサスプロトコルのパフォーマンスを定量的に評価する指標をいくつか示す。
  • Bitcoinネットワークの15%超(筆者注:当時)のノードから成る実験環境での実験を通じてBitcoin-NGの堅牢性とスケーラビリティを定量化する。

※以下、今回まとめた範囲の論文和訳になりますので詳細をご覧になりたい方は読み進めてください。

要諦

Bitcoinを基にし、そしてBitcoinがその先頭をゆく暗号通貨は匿名のオンライン決済、安価な送金、トラストレスなデジタルアセット交換、スマートコントラクトのインフラとして将来有望であることを示した。しかし、Bitcoinから派生したブロックチェーンプロトコルはスループットとレイテンシのトレードオフであるスケーラビリティの制約を内在的に有しており、そのことがポテンシャルの現実化を抑制してしまっている。

本論文ではBitcoin-NG(Next Generation)を紹介する。これはスケールのために設計された新しいブロックチェーンプロトコルだ。ビザンチンフォールトトレラントなブロックチェーンプロトコルで、極めて激しい変化に対しても堅牢でBitcoinと同じ信頼モデルを与える。

Bitcoin-NGに加えて、Bitcoinライクなブロックチェーンプロトコルのセキュリティと効率性を定量化することに関する最新の手法をいくつか紹介する。私たちはBitcoin-NGを実装し、利用可能なBitcoinシステムのサイズの15%で両プロトコルの変更のないクライアントを用いて大規模な実験を行った。実験の結果、Bitcoin-NGは帯域幅は個々のノードのキャパシティにだけ、レイテンシはネットワークの伝搬時間にだけしか制限されず、最適にスケールすることが明らかになった。

1. はじめに

Bitcoinは初めて広くデプロイされた非中央集権的なグローバル通貨として浮上し、数百の模倣通貨の火付け役となった。概して暗号通貨は金融、テックセクタ、学術から多くの注目を集めた。アングラ経済で広く市場浸透し[38]、時価総額は120億ドルに到達し、ベンチャーキャピタルでは10億ドル近くのお金を引き寄せた[15]。システムに力を与える中心的な技術イノベーションは、ブロックチェーンとして知られている分散台帳を維持するためのナカモトコンセンサス(Nakamoto Consensus)プロトコルだ。ブロックチェーンテクノロジは非中央集権の、オープンで、ビザンチンフォールトトレラントな取引メカニズムをもたらし、匿名オンライン決済[14]、送金、デジタルアセットの取引[16]などの新世代型インターネットインタラクションのインフラになるという期待させてくれる。現在進行中の研究はスマートデジタルコントラクトの深堀りで、これは匿名の者がプログラム的に複雑な合意の強制執行を可能にするものである[31, 56]。

それだけのポテンシャルを秘めているにも関わらず、ブロックチェーンプロトコルは非常に大きなスケーラビリティの壁にぶつかっている[51, 36, 19, 5]。システムが処理可能なトランザクションの最大速度は2つのパラメータの選択によって上限が決まる。それはブロックサイズとブロック間隔である。ブロックサイズを引き上げればスループットは改善されるが、より大きなブロックは伝搬により多くの時間を要することになる。ブロック間隔を短縮すればレイテンシも小さくなるが、不安定になり、システムの不一致が起こりブロックチェーンはreorgの可能性に晒される。いまのところBitcoinはコンサバティブな10分のブロック間隔を目標としており、トランザクションがブロックチェーンにエンコードされるのに10分の期待レイテンシを生じさせている。ブロックサイズは現在1MBに設定され、Bitcoinの典型的なトランザクションサイズでは1~3.5tpsを出している。ブロックサイズの引き上げ提案はBitcoinコミュニティでは非常に熱く意見が交わされている議題である[47]。

本論文ではBitcoin-NGを紹介する。これはBitcoinと同様の信頼モデルに基づいたスケーラブルなブロックチェーンプロトコルである。Bitcoin-NGのレイテンシはネットワークの伝搬遅延によってにしか制限されず、帯域幅は個々のノードの処理性能によってしか制限されない。Bitcoin-NGはBitcoinのブロックチェーンオペレーションを「リーダー選出(leader election)」と「トランザクションシリアライゼーション(transaction serialization)」の2つの次元に分けることでこのパフォーマンス向上を実現する。時間はいくつかのエポックに分け、エポックごとに一人のリーダーがいる。Bitcoin同様、リーダー選出はランダムかつまれに行われる。リーダーが選出されると、1つ前のリーダーのエポック終了を示す新しいリーダが選ばれるまでそのリーダーは一方的にトランザクションをシリアライズする権能を持つ。

このアプローチはBitcoinのオペレーションからは大きく逸脱しているが、Bitcoin-NGはBitcoinのセキュリティ特性を維持している。暗黙的にではあるが、Bitcoinでもリーダー選出は既に行われている。しかしBitcoinでは、リーダーは履歴のシリアライズを担当しており、リーダー選出間の持続時間全体が長いシステム硬直になってしまっている。対照的にBitcoin-NGのリーダー選出は将来を考慮しており、システムが継続的にトランザクションを処理できるよう保証する。

新しいコンセンサスプロトコルのパフォーマンスと機能を評価することは難しいタスクである。定量的評価と別のコンセンサスプロトコルの比較対照の基礎を与えることを補助するため、ナカモトコンセンサスの実装を評価する指標をいくつか紹介する。これらの指標は、グッドプット(筆者注:スループットデータのうち、余分なデータを取り除いて使用可能なデータだけを残したもの)やレイテンシ、様々なセキュリティの側面、コンセンサスの維持能力や中央集権化への抵抗力などのパフォーマンス指標を捉える。

私たちは1000ノード、量に換算していま動いているBitcoinネットワークの15%超[41]からなる巨大な模倣テストベッドでBitcoin-NGのパフォーマンスを評価した。このテストベッドにより現実的なインターネットレイテンシを使って変更のないクライアントを動かすことが可能である。Bitcoin-NGとオリジナルのBitcoinクライアントを比較して、オリジナルのBitcoinプロトコルに内在する非常に重大なトレードオフが明らかになった。ネットワーク帯域幅を考えた制御や、ブロック間隔の短縮によるBitcoinのレイテンシ低減、ブロックサイズ引き上げによるスループット向上はどれも反対の効果を生み出してしまう。特に、規模の小さなマイナーに対するアドバンテージを規模の大きなマイナーに与えてしまい、公平性の点で苦しむことになる。このアノマリーはマイニングパワーが一人の支配者のもとで向けられがちな中央集権化を導き、非中央集権的な暗号通貨ビジョンの基本前提を壊してしまう。その上、マイニングパワーが失われるとシステムを攻撃に対してさらに脆弱にしてしまう。これに対してBitcoin-NGはネットワークの状態とノードの処理限界の許す限り最大限にレイテンシとスループットを改善しつつ、公平性の問題とマイニングパワー活用の問題も回避する。

要約すると本論文は3つの貢献を行う。第一に、Bitcoinの信頼の前提を変えずに著しい高スループット・低レイテンシを実現するBitcoin-NGのスケーラブルなブロックチェーンプロトコルについて概略を述べる。第二に、ナカモトコンセンサスプロトコルを評価するための定量的指標を紹介する。指標はBitcoinから派生した暗号通貨におけるパラメータ選択に関して行われている議論の礎となるよう設計されている。最後に、大規模な実験を通してBitcoin-NGの堅牢性とスケーラビリティを定量化する。

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