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暗号通貨広告禁止の実際について1

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本稿について

GoogleやFacebook、Twitterといった現在の主要なウェブメディアが相次いで暗号通貨広告の禁止に乗り出している。

一般論で言えば、これらのメディアは、多くの人にとって情報のゲートウェイであろう。暗号通貨にとっても、人へのアクセスという意味においてゲートウェイであることには変わりない。そして、人へのアクセスが生命線である暗号通貨にとって、依存度はより高いと言えるだろう。

Googleで検索すればページの上部に広告が表示されるし、FacebookではICOのグループが作成されて喧伝される様子が見られ、Twitterではアカウントが発信を続けている。いずれも人の目に触れるようにするためにである。だが、人は暗号通貨がなくても生きていけるが、暗号通貨は人がなくては生きていけない。文字通り、暗号通貨にとってこれらのメディアは現在の生命線なのである。

ゆえに、広告禁止が発表されたとき、暗号通貨市場は命綱を断たれてしまったかのように恐慌に陥った。正確に言えば、市場に参加している投機家たちは、暗号通貨が命綱を断たれて間もなく絶命するかのように考えて恐慌した。それは市場規模の縮小、価格の下落という形でよく表れているように思う(ただし、これら縮小の原因を広告禁止のみに求めるつもりはない点は注記しておく)。

確かに、
①ウェブメディアは暗号通貨の広告を禁止する

②暗号通貨にとって、ウェブメディアの広告は生命線である

③ゆえに暗号通貨は生命線が断たれ、絶命する
という論理は非常に通りがよい。

だが、上述の論理は果たして正しいのだろうか。すなわち、投機家たちが論拠として用いている①と②は確かにこの通りなのだろうか。これを明らかにするには、例えば以下のような質問をぶつけてみるとよいだろう。
「ウェブメディアの広告禁止の規定はどのようなものか?」
「暗号通貨にとって、生命線はウェブメディアの広告以外にないのか?」

上記質問への回答が、何らの例外規定もなく無条件で一律禁止、ウェブメディアの広告以外の生命線はなく作ることもできない...というような旨のものであれば、確かに絶命しそうなものである。しかし、そうでないのであれば、簡単には絶命すまい。

経済学では、人は合理的で、市場は情報を全て織り込んで動くと言われる。他方、行動ファイナンスでは、人はしばしば不合理で、正しく評価された結果としての市場になるわけではないとも言われる。果たして今回の真実はどちらなのだろうか。これから数稿にわたり、各社の広告禁止の内容や、生命線について事実を確かめていく。

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Facebookの暗号通貨の広告禁止について

まず、Facebookが発表した新しい広告ポリシーは以下。

  1. 29.禁止されている金融商品や金融サービス
  2. 新しい広告ポリシー:金融商品・サービス関連広告の健全性と安全のための取組

まず、1ではポリシーとして以下のように述べている。

広告では、誤解を招く宣伝や詐欺的な宣伝と結びつけられることの多い金融商品および金融サービスを宣伝してはいけません。具体的にはバイナリーオプション、新規仮想通貨公開、暗号通貨などです。

さらに例として、以下のような宣伝を禁止している。

「今すぐバイナリーオプション取引を始めると、特典としてリスクフリーの取引を10回行えます!」
「こちらをクリックすると、世界中のどこにでも即時送金できる無リスクの暗号通貨について詳細をご覧いただけます」
「新規仮想通貨公開!今なら15%オフでトークンを購入できます」
「退職金を使ってビットコインを購入しましょう!」

2では、その根拠や適用範囲について以下のように触れている。

(前略)これは、Facebook広告が新しい商品やサービスの情報をお届けするときに、嘘や詐欺ではないかと利用者を不安にさせてしまうことを防ぐためです。残念ながら、バイナリーオプション、ICO、仮想通貨について、誠実とはいえない宣伝をしている企業が多数あるのが現状です。

虚偽や詐欺の広告手口を発見しやすくするための対策が講じられるまでの措置として、今回追加したポリシーは意図的に対象を幅広く設定しています。ポリシーは、Facebook、Audience Network、Instagramをはじめ、弊社の全プラットフォームへ段階的に適用されることになります。今後は検出技術の向上に努め、それに合わせて本ポリシーや施行方法も見直していきます。(後略)

考察

ICOや暗号通貨は、「誠実とはいえない宣伝」と結びついて利用者を不安にさせてしまう可能性があるため、宣伝を禁止するとのことである。

確かにScam的なコインやICOはそこかしこに転がっている(そして、そういう類のものに限って大々的に宣伝をしている)ため、個人的にはこの理由に基づく措置は納得がいく。ただ、「新規仮想通貨公開!今なら15%オフでトークンを購入できます」という類の宣伝はICOではありがちな方法でありながら禁止対象となっていることから、かなり厳しい内容であると言えるだろう。

適用範囲はFacebookを始めとする、Facebookの全プラットフォームに段階的に適用されるとのことで、虚偽や詐欺の広告をFacebookブランドから一掃してクリーンにしようとする姿勢が伺える。

しかし、この禁止措置には明示的ではないが期限がある。すなわち、「虚偽や詐欺の広告手口を発見しやすくするための対策が講じられるまで」である。そして、「検出技術の向上」によって「本ポリシーや施行方法も見直してい」くと述べられている。逆に言えば、検出技術の向上によって虚偽や詐欺の広告手口を発見しやすくなれば、広告禁止措置が解かれる可能性があるということである(検出技術が具体的にどのようなものであるかについて詳細は明かされていないが)。

ただし、個人的にはFacebookプラットフォームにおける広告禁止措置が早々に解かれることはないだろうと考えている。何故ならば、その暗号通貨やICOが虚偽や詐欺であるか否かを早期に判別することは、Facebookプラットフォームに投稿された内容を精査するだけでできるほど簡単ではないからである。Facebookだけが頑張れば解決する類の問題ではないからと換言することもできる。

詐欺的であるとは、単純化すれば「言っていること(ホワイトペーパー、宣伝、計画、マーケティング等)」と「やっていること(開発進捗、プロダクト、品質等)」が異なることに端を発するものであるが、その視点から考えると、以下のような障壁が浮かび上がる。

  • プラットフォームを問わずつきまとう情報操作の可能性
    「言っていること」は「やっていること」に合わせることが可能である。すなわち、後付けによる辻褄合わせが可能である。そして辻褄合わせは、悪意の有無に関わらず、ステークホルダーに対するアカウンタビリティとして通常行われることであるから、詐欺的か否かの判別は容易ではない。
  • プラットフォーム内の情報不足と判断に要する時間の課題
    「言っていること」と「やっていること」の全てがFacebookプラットフォーム上に投稿されるわけではない。例えば、ユーザとの細かなやりとりや議論はしばしばテレグラムで行われたりして、それは必ずしも表に出ることはない。プラットフォーム内の「(過去に)言ったこと」と「やっていること」の相違を確認することで詐欺的であるかの判断に資することは可能だが、相違が明白になるまでには当然それなりの時間がかかる。
  • プラットフォーム外に情報を求める場合にかかるコスト
    「言っていること」や「やっていること」の情報を入手するためには、暗号通貨の開発者やICOの実施者、善意の協力者、他プラットフォームの運営者などの協力が不可欠である。そういったコネクションを作り、維持することは様々なコストがかかる。

以上のような障壁を短期間で乗り越えて、効果的な詐欺手口検出方法を実装し、利用者が不安でない環境を形成するのは容易ではなかろう。

(次稿に続く。次稿では、Googleの暗号通貨広告禁止について取り扱う。)

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