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Quadratic Voteについて

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Tendermintの論文を漁っていたらQuadratic Voteに注目している的な記述を見つけたので気になって調べてみた。

Quadratic Voteってなに?

集団における二者択一の意思決定場面(binary collective decisions, リーダー選出や国民投票など)において、いわゆる1人1票の投票形式ではなく、1人がたくさんの票を投じることも可能にする形式。何らかのアルゴリズムによりシステマティックに1人の票に「重み」を付けるアプローチというよりは、人が対価を支払って票を「購入」するような仕組み。日本語訳を当てるなら二乗型投票といったところだろうか。提唱者はGlen Weyl。近年はSteven P. Lalleyと共に論を拡張させている模様。

目的(本来)

マジョリティの「数の暴力」に制限を加えることでマイノリティを守ること。論文中で触れられているのはLGBTなど。

仕組み

  1. 投票者はまとまった「Voice Credit」を何らかの公平な手段で(等分などで)付与される。
  2. 投票者は入れる票の2乗の「Voice Credit」をクリアリングハウス利用して投票することができる。1票であれば1Voice Credit、2票であれば4Voice Creditsである。

※一定のVoice Creditが与えられる前提である場合と購入するとしている場合、そもそもVoice Creditというワードを使っていない場合など論文によってまちまちであるが、「投じる票数の2乗に当たるものを購入する」というコンセプトは一致している。

例えば、N人の投票者(1, 2, ..., N)がおり、投票者iは案AかBのいずれかを選択する投票において、投票viを行う。viが正であればAにその分の賛成票を、負であればBにその分の賛成票を入れたことを意味する。Aが選ばれる条件はΣvi ≥ 0である。投票者は投じる票の数にあるルールc(「投票値付けルール(vote pricing rule)」)を適用した分のVoice Creditをクリアリングハウスに提出することで投票することができる。

投票値付けルールcは、微分可能かつ凸関数かつ偶関数かつ|vi|について単調増加な関数であり、c(x) = x2であることは投票値付けルールがロバストに最適であることの必要十分条件である(次数が2以外はNG)。

いくつかの前提(論文中に置かれている仮定)

えてして仮定が崩れると論が崩壊することもあるので、一応論文中に置かれている主な仮定も書いておく。

  • 認識している投票機会では、投票が極めて重要(pivotal)である。
  • 全ての投票者は、購入する票数を決めるために1票増やすのにかかるマージナルコストを計算する。
  • 投票の限界重要性pmarginal pivotality, 投票の追加が意思決定を左右すると考えている確率)について、全ての投票者が同意しているものとする(Mueller(1973)とLaine (1977)の提案に基づく)。
  • 各投票者iは、案A(またはB)に対価を払いたいという意欲を決定付ける値uiを心のうちで持っている。
  • 各投票者iは、2pviuiを最大化するようにviを決定する。

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なぜブロックチェーンで注目されているか?

ざっくりと言えば、ブロックチェーンが強大なステーク(資金)保有者によって占められてしまうことを防げる可能性があるから。

強大なステークを持つものは、例えばバリデータを資金によって懐柔して意図したとおりに振る舞ってもらうようなことが考えられる。それは結果的にコンセンサスプロトコルに従ったものであるかもしれないし、あるいはプロトコルに従わない、要するにビザンチンなふるまいかもしれない。どういう形をとるにせよ、強大な力を持つものが影響を与えやすいという構図自体は現実世界だけに限らずブロックチェーンでも存在している。

他方、ブロックチェーンのスケーラビリティ問題は長年議論されている問題であるが、昨今ではその解として、一定の非中央集権性を犠牲にして高速なコンセンサス形成を得るブロックチェーン(サイドチェーンも含む)が増加してきている。非中央集権性が失われるというのは、端的に言えばブロックチェーンを維持するP2Pネットワークの合意が少数のバリデータ(ノード)で行われるということを意味する。

一例として、たくさんのステークを積んだ者がこの少数のバリデータのうちの1つになれるような仕組みであればやはり強大なステークを持つ者ほどバリデータになりやすくなるし、ステークに比例して投票権限を持つ仕組み、バリデータに委任するような仕組み(DPoSのような仕組み)であればやはり強大なステークを持つ者がお金にものを言わせる事態が考えうる。

というわけで、ブロックチェーンのセキュリティの観点から何らかの形で「強者」の力を制限する必要があるという考えがある。強者から見れば非常に面白くないかもしれないし、そもそも非中央集権性を犠牲に高速性を得ているのに占有されるのは心配なのかと疑問に思うかもしれないが、やはりプロトコルに定められた射程外からブロックチェーンを歪められる可能性を取り除くという意味で対処すべき課題なのである。

そこでQuadratic Voteが注目を浴びている。これは単純な仕組みであるが、ある投票の賛否に対して1票を投じるだけであれば1人1票の通常の民主主義的な投票と何ら変わりはないが、1人が1票以上の力を得ようとすると票数の2乗のコストがかかる仕組みである。つまり、2票であればコスト4倍(2の2乗)だし、3票であればコスト9倍(3の2乗)、100票であればコスト10000倍となる。このようにすることで、いわゆる「数の暴力」を低減することが可能であると目されている。

また、これは個人的な所感になるが、上記の論文で置かれている仮定のうちの「投票がpivotalであること」「マージナルコストを計算すること」については中央集権的なシステムよりも非中央集権的なブロックチェーンの方が仕組みの方が性質上(忖度がいらないとか、データとして記録が残っていて透明性が高いとか)満たしやすい気がする。

参考文献

  • Nash Equilibria for Quadratic Voting, Steven P. Lalley & E. Glen Weyl, https://arxiv.org/pdf/1409.0264.pdf, 2018
  • Quadratic Voting How Mechanism Design Can Radicalize Democracy, Steven P. Lalley & E. Glen Weyl, https://papers.ssrn.com/sol3/Delivery.cfm/SSRN_ID3092895_code1186331.pdf?abstractid=2003531&mirid=1&type=2, 2017
  • Quadratic Voting, Steven P. Lalley & E. Glen Weyl, https://www.aeaweb.org/conference/2015/retrieve.php?pdfid=871, 2014
  • Quadratic Voting: A New Way to Govern Blockchains for Enterprises, Sherman Lee, https://www.forbes.com/sites/shermanlee/2018/05/30/quadratic-voting-a-new-way-to-govern-blockchains-for-enterprises/#5983c2126ef8, 2018

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