本稿について
様々なブロックチェーンにインスピレーションを与えているプロトコルBitcoin-NG(Bitcoin Next Generation)の論文を見ていきます。本稿では「9. Related Work」の前半を見ます。
原文はこちらになります。
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今回のまとめ
- モデルについて
- 使用するモデルはAspnesらのモデルやGarayらのモデルと似ている。ナカモトコンセンサスの定義はGarayらの定義と似ている。ただし、「メンバシップの変化」や「誠実なノードの表現の公正性の担保」の点ではBitcoin-NG異なる。
- 分散システムにおける「リーダーが決定の提案を行い、定足数により承認される」タイプのプロトコルは古くからあるが、Bitcoin-NGは「リーダーの決定(ブロック)が後続のリーダーに遡って承認される」プロトコルである点で異なる。
- GHOST(筆者注:The Greedy Heaviest-Observed Sub-Tree)について
- Sompolinskyらの提唱するプロトコルで、チェーン選択ルールを変更することでスケーラビリティを改善しようとするもの。
- メインチェーンを長さで決めるのではなく、分岐点以降のブロックツリーの生成に費やされたプルーフオブワークの多寡(=重さ)で決めるプロトコル。
- Bitcoinの「少なくとも1ノードがメインチェーンとそのブロック全てを知っている必要がある」という条件を満たさない場合があるが、それを克服しようとするとオーバヘッドが大きくなって実用的でなくなるという課題がある。
- 課題を克服すればBitcoin-NGの補完に利用できそうだ。
※以下、今回まとめた範囲の論文和訳になりますので詳細をご覧になりたい方は読み進めてください。
9. 関連研究
モデル
Bitcoin[43]とその改善のように、Bitcoin-NGのゴールはオープンシステムにRSM(レプリケートステートマシン)を実装することだ。正確な仮定と保証が別の研究で模索されている[11, 40, 26]。私たちのモデルはAspnesらのモデル[2]やGarayらのモデル[26]と似ており、私たちのナカモトコンセンサスの定義はGarayらの定義[26]と似ている。これらは、モデルと旧来のビザンチンフォールトトレラントなRSMの点で異なっている。概して言えば後者は(1)定足数システムやそれを再構成したものなどの固定または変化の緩やかなメンバシップを仮定しており、(2)ステートマシン遷移における誠実なパーティの表現の公正性を保証しない。
リーダー選出の問題はどうも1977年にGerard LeLannによって初めて定式化され、解決されたようだ[34]。1982年にはHector Gracia-Molinaが故障のある分散システムにおけるリーダー選出問題に対応した[27]。それ以来、リーダー選出は分散システムのパフォーマンス改善のために大々的に用いられてきた([20, 42]など)。これら古くからあるコンセンサスプロトコルにおけるリーダーの役割は決定の提案で、この決定は定足数により承認されねばならない。これは、(ここで定義したような)リーダーのブロックが後続のリーダーのブロックによって回想的に承認されるブロックチェーンプロトコルと対比しうるものである。
GHOST
Sompolinskyらが提唱するGHOSTプロトコル[51]は、チェーンの選択ルールを変更することでBitcoinのスケーラビリティについて改善する。Bitcoinにおいては最も多くの仕事量(プルーフオブワークに基づく、全てのチェーンのブロックに対しての累積値)が費やされたチェーンがメインチェーンであるが、GHOSTではフォーク時にノードはサブツリーにより多くの仕事量(全てのサブツリーのブロックに対しての累積値)を含む方を選ぶ。最も重い細部ツリーを選ぶことの利点は、最終的にはメインチェーンには含まれないプルーフオブワークを考慮できることだ。従って、GHOSTは激しい競争環境下においても公正性とマイニングパワー利用率の双方を改善する。
しかしGHOSTでは、プルーニングされるサブツリー上のブロックは分岐点におけるチェーンの選択ルールにしか影響しない。Bitcoin-NGプロトコルは大きな帯域幅かつスループットでも小さなフォーク率を維持し、より高いマイニングパワー利用率と公正性を実現する。さらに、実働システムでGHOSTを使うには課題がある。ビットコインでは、任意の時点で少なくとも1ノードがチェーンのブロックを知ったあとにメインチェーンがどれであるかが分かっている必要がある。GHOSTでは必ずしもこれは当てはまらず、どれがメインチェーンかを決める十分な情報を1ノードも持っていない可能性がある。私たちの技術レポートに例を示す[23]。
GHOSTで本当のメインチェーンを見つける方法は全ブロックを伝搬するか、全ブロックヘッダを伝搬するかである[51]。しかし、悪意あるノードはディフィカルティの低いブロックをネットワークに大量に流し込むことができるので、この方法ではシステムをDoS攻撃に晒してしまう。このセキュリティ上の危険性を避けるヒューリスティックがあるかもしれない。つまり、この問題に対処するのではなく、全ブロックを伝搬するというのを実装することでシステムを評価するのだ。この条件下ではGHOSTのパフォーマンスはBitcoinより悪化する。なぜなら、全てのブロックを伝搬することのオーバヘッドがチェーン選択ルールの利点を上回るからだ。とはいえ、残りの課題を克服した実践的なGHOSTの実装はBitcoin-NGの補完に利用でき、より高い頻度でのキーブロック生成を実現する。
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